第3回HLRCC交流会のお知らせ 2026.02.02.
久しぶりの更新となりました。今年も本HPをよろしくお願い申し上げます。
さて、今年も恒例のHLRCC交流会を開催します。
第3回 HLRCC交流会
日時:令和7年5月23日(土) 14:30~17:00
場所:横浜市立大学 福浦キャンパス オープンイノベーションラボ1階 セミナー室
(※部屋は変更となる場合がございます。当日スタッフが誘導いたします。 )
横浜シーサイドライン 市大医学部駅 下車徒歩1分
形式:現地開催のみ
参加費:無料
参加申込:事前申し込みが必須です。下記アドレスにご連絡ください。
iJingan[at]yokohama-cu.ac.jp
([at]は@に換えてください。)
こちらもご覧ください。
第1部ではHLRCCや、遺伝性腫瘍一般に関連する最近の話題をご紹介し、第2部は当事者・ご家族どうし、あるいは医療者とのざっくばらんな対話のコーナーとなっております。
遺伝性疾患は複雑で多様な問題を当事者・ご家族の方にもたらします。
治療に関することは各診療科の主治医と相談、遺伝に関することは遺伝子診療科で遺伝カウンセリングを…というのが原則です。それは確かにそうなのですが、当事者の方が「その手前」のところでどうすればいいかわからず立ち往生することが多いのも事実です。
この交流会が普段の診察を補完する場として、皆様のお役に立てれば幸いです。
将来的には当事者の方も登壇したり企画に関わったりしてくださればいいなぁ、なんて思っています。
お申込みは1週間前(5月17日)まで受け付けております。万象お繰り合わせのうえご参加くださいますようお願い申し上げます。
(入部)
HLRCCのサーベイランス(後編) 2025.06.17.
前の記事に続いて、米国がん学会(AACR)小児がんワーキンググループによるサーベイランスガイドライン(1)について、コメントを交えてご紹介します。前の記事の最後にも述べましたが、ガイドラインは絶対ではなく、あくまで参考にするべきものです。実際の診療ではガイドラインに準拠しつつ、個々の患者さんの病態や状況に応じた最適な対応をするために多少のアレンジが加わることも多いです。
1. Michaeli O et al. Clin Cancer Res. 2025;31(3):457-465.
アップデート③:皮膚平滑筋腫
前の版では1-2年に1回、全身皮膚の診察を行うことが推奨されていましたが、今回の改訂で定期サーベイランスの推奨はなくなりました。皮膚平滑筋腫は基本的に症状(痛み、過敏性など)があるときに治療介入の対象となりますので、症状が出たら適宜受診ということでよいのでしょう。
一方で、悪性転化する例についての言及がなされています。頻度は低いのですが、「皮膚平滑筋肉腫」という悪性腫瘍を生じる例もあります。
各種報告では、皮膚平滑筋肉腫を生じた例は
35家系 81 名中 1 名(2)
114家系182 名中 3 名 (3)
38家系57名中3名 (4)
と述べられています。
2. Toro J et al. Am J Human Genet 2003;73:95-106.
3. Muller M et al. Clin Genet 2017;92:606-615.
4. Scharnitz T et al. Am J Cancer Res 2023;13:236-244.
これを受けて今回の版のガイドラインでは、皮疹が痛みを伴ったり、増大傾向を示したり(悪性転化)する可能性について10代から疾患教育を行うことを推奨しています。
それならば定期サーベイランスをすべきではないか、という疑問も当然出てきます。しかし皮膚平滑筋肉腫の見た目そのものは皮膚平滑筋腫とあまり変わらないようなので、実際1年に1回の診察で皮膚平滑筋肉腫を発見できるかというと難しいのかもしれません。経時的に観察するにしても、特に多数の皮診のある場合は、すべての皮診の大きさを記録するのは現実的ではなさそうです。それよりは患者さん本人が日々観察しているほうが増大傾向を発見しやすいという面もあるのだと思われます。
アップデート④:子宮(平滑)筋腫
こちらも今回の版では定期的なサーベイランスは不要となりました。こちらも基本的に症状があるときだけ治療介入の対象となるためです。
病的バリアント保持者の女性に対しては10代になったら疾患教育を行うことが重要と述べられています。具体的には
・月経の変化(月経不順、月経困難症の出現)
・下腹部痛、張る感じ
といった症状が出てくることがあることを説明し、その場合は産婦人科を受診するよう伝えるとされています。
以上、前回と今回の記事で腎臓、皮膚、子宮のサーベイランスガイドラインのアップデートについて解説いたしました。実は今回の版では褐色細胞腫/パラガングリオーマという病変についても言及がなされていますが、これについては通常のHLRCCの文脈とは少し変わってきますので、今後別の記事で述べたいと思います。
サーベイランスはある時期(臓器ごとに異なります)から生涯にわたり行うものですので、当事者の方自身が意味や意義を理解しておく必要があります。医療者の方以外には読みにくかったかもしれませんが、当事者と医療者が一緒の方向を向いていくために敢えてこの内容でお送りしました。適切な診断とサーベイランス、そして各病変に対する早期の介入で辛い事態を免れることを願ってやみません。
(入部)
HLRCCのサーベイランス(前編) 2025.06.09.
サーベイランスという言葉を聞いたことがあるでしょうか?
サーベイランスとは、遺伝学的素因から病変の発生リスクが高いと推定される人に対し、 病変の早期発見を目的に提供される検査をいいます。その人において病変発生リスクが高いとされる特定の臓器について定期的な検査を行っていきます。
米国がん学会(American Association for Cancer Research)の小児がんワーキンググループが、いくつかの遺伝性腫瘍のサーベイランスについてのガイドラインを作成しています。HLRCCついては2017年にサーベイランスガイドラインが発表されており(1)、当チームでもそれを参考にサーベイランスを行っていますが、2023年に7年ぶりの改定作業が行われ、2025年1月にpublishされました(2)。その内容について私どもの見解も交えて紹介していきたいと思います。
1. Schults KAP et al. Clin Cancer Res. 2017;23(12); e76–e82.
2. Michaeli O et al. Clin Cancer Res. 2025;31(3):457-465.
アップデート①:腎細胞癌発生年齢について
HLRCCにおける腎細胞癌の発生は
15歳までに1%
20歳までに2%
70歳までに21%
でみられるという報告があります(3)。また、世界最年少の腎癌発生の報告は7歳で、本邦からの報告です(4)。当チームでも最近、小学校高学年での腎細胞癌発生例に複数出会いました。頻度は低いながら、15歳未満においても腎癌には注意が必要です。
3. Forde C et al. Eur Urol Oncol. 2020;3(6):764-772.
4. Taniguchi R et al. Fam Cancer. 2022;21:337-341.
アップデート②:腎臓サーベイランス
腎臓については、10歳くらいから、年1回MRIを撮像することが推奨されています。前の版ではサーベイランス開始年齢の推奨は8歳からとなっており、今回引用されている文献でも8-10歳からのサーベイランス開始を推奨されていますので、開始年齢が10歳に上がった根拠は不明確です。これはあくまで未発症者への定期検査であり、腎細胞癌の治療後フォローは造影CTで行われることが多いので、これをお読みになった方が現在受けている画像検査と異なっていても心配なさらないでください。
これまではガドリニウム造影剤を使用したうえでMRIを撮像することが推奨されていましたが、今回の改訂で造影剤はルーチンでは不要となりました。これはガドリニウムが排出されきらず体内に蓄積すると腎性全身性線維症のリスクがある(それが起こりうるのは主に腎機能障害のある方ですが)ということと、MRIの拡散強調像で腫瘍性病変を見出すことができることを根拠としています。サーベイランスで腫瘍が見つかった際のさらなる精査として造影MRIを撮像することは推奨していますが、その状況であれば、少なくとも本邦の実臨床ではダイナミックCT(ヨード造影剤を静脈注射してから複数のタイミングでCTを撮影する方法で、病変の血流の評価に有用です)を用いることが多いでしょう。
さて、ではサーベイランスの頻度自体が本当に年1回でよいか、ということですが、これはまだ議論の余地があるのではないかと思われます。HLRCC腎癌は悪性度が非常に高く、小径でもリンパ節転移をきたしやすいという性質があります。これを踏まえると、年1回のMRIの合間に、半年のところで超音波(エコー)検査を挟むのも一案かもしれません。超音波は腫瘍の検出感度が低いためサーベイランスの方法の第一選択ではありませんが、閉所恐怖症や体内金属などでMRIが不可の場合は超音波でのサーベイランスも許容されます。超音波検査は血流を評価できるという利点もあります。
後半に続きます。なお、ガイドラインは臨床的意思決定の参考とすべきものでありますが、絶対ではありません。完全なガイドラインはなく、批判的検討や改善の余地は必ず存在します。そして患者さんごとに色々な状況を勘案しながら日々の臨床というのは行われています。その点ご承知おきいただき、この記事で記載されている経過観察法と違うやり方を受けている当事者の方がいらっしゃっても、どうか慌てないでください。
(入部)
レポート:第2回HLRCC交流会
2025年5月24日、第2回HLRCC交流会を横浜市立大学福浦キャンパスのC4教室(直前でヘボンホールから変更になりました)にて開催いたしました。今回は全国から7家族12名の当事者・ご家族の皆様にご参加いただきました。HLRCCの稀少性と、診断がついている人は腎癌で闘病中の方が多いことからすると、この人数は第2回目としては中々なのではないでしょうか。
今回は情報提供として
1. HLRCC/遺伝性腫瘍に関連する最近の話題
(横浜市立大学附属病院 泌尿器科 入部康弘)
2. HLRCCと遺伝 ~遺伝カウンセリングって何をするの?~
(横浜市立大学附属病院 遺伝子診療科 栗城紘子)
3. HLRCCの基礎研究の動向
(横浜市立大学附属病院 泌尿器科 軸屋良介)
の3講演を行いました。
1の講演では米国がん学会(American Association for Cancer Research, AACR)によるサーベイランスガイドラインの最新版の内容について紹介したほか、今後進行腎細胞癌について承認される見込みの新規薬剤「ベルズチファン」についての紹介、ゲノム医療推進法、遺伝性腫瘍の着床前遺伝学的検査をめぐる現況についてお話ししました。最新のサーベイランスガイドラインについては、このコラムでも改めて紹介していきたいと思います。
2の講演では認定遺伝カウンセラーの栗城さんに、遺伝性腫瘍とはどういうものか、遺伝学的検査の進め方、発端者※がHLRCCと確定したあとの家族への遺伝カウンセリングについて模擬ケースを交えて解説いただきました。昨年の交流会の懇談では疾患に関する家族内コミュニケーションが話題の中心となりました。この講演は前回の宿題への回答として企画し、お願いしたものになります。質疑では参加者の方々が現在進行形で抱える問題と悩みについて質問され、医療者スタッフが回答するだけでなく、当事者の方から経験に基づく助言がなされるなど、予想以上に活発な討議となりました。
(※発端者:当該家系において、遺伝的問題について気付くきっかけになった最初の人)
3ではHLRCC腎癌について基礎研究からわかっていること、現在当チームで進めている研究についてご紹介しました。昨年と重なる内容もありましたが、今回からご参加の方のほうが多かったということもあり、改めてご紹介しました。こちらでも参加者の方から積極的な質問がありました。
内容盛り沢山でお送りして、予想以上に議論も活発だったため時間がかなり押してしまいました。講演パートが終わった時点で予定終了時刻に近くなってしまいましたので、やむを得ず会としては一旦締めましたが、終了後もほとんどの方がしばらく残って懇談をされていました。前回出会った方どうしで再会を喜んだり、新しい繋がりが生まれたり、掘り下げた質問や相談をスタッフにされたりと、短い時間ながらこの機会を活用していただけたのではないかと思います。
今回もどれだけの参加人数が集まるか心配しながら会の準備を進めていましたが、おかげ様で盛会裡に終えることができました。参加された皆様に深くお礼申し上げます。
また、現地参加された方々以外にも、当事者・ご家族の方からお問合せをいただきました。遠方だったり事情があったりして現地参加ができない方には当日の配布資料を送らせていただきました。このコラムをご覧になっている方も、ご希望があれば下記アドレスにお問合せください。
iJingan[at]yokohama-cu.ac.jp [at]は@に換えてください。
HLRCC交流会は来年2026年5月にまた第3回を開催する予定です。年末くらいに日程をこのHPや横浜市立大学附属病院泌尿器科 遺伝性腎腫瘍外来のHPに告知します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
(入部)
レポート:第1回HLRCC交流会
2024年5月18日、第1回HLRCC交流会を横浜市立大学福浦キャンパスのヘボンホールにて開催いたしました。 近年患者さんが少しずつ増えてきたHLRCCについて疾患の啓発や当事者・ご家族どうしの交流の場を設けたいというのが目的です。初回であること、また各当事者の方々の治療状況などもあり、少人数での開催となりました。
まず前半では講演として、 ①HLRCCの疾患総論(横浜市大泌尿器科 入部康弘)、②腎腫瘍のマネージメント(同 蓮見壽史)、③基礎研究の最新知見(同 軸屋良介) について講演を行いました。
そして後半では参加者である当事者・ご家族の方々と、医療者・研究者の懇談となりました。 話題に上ったのは、疾患に関する家族内コミュニケーションについてでした。HLRCCでは10歳くらいから腎癌を発症する可能性もあることから、早期に診断をつけることが望ましいとされています。しかし子どもに疾患のことをどう話すかというのは非常にセンシティブな問題です。一義的な正解のない問題について、サポートで参加してくださった遺伝子診療科スタッフも交えて話し合いました。当然その場で答えは出なかったのですが、この対話が各々にとって、何か少しでも心持ちの変化をもたらしてくれれば、と望んでやみません。
ざっくばらんな懇談のなかで、当事者・ご家族の皆様が困難を乗り越え前を向こうとするパワーを感じることができたのも確かです。私どもが逆に励まされたような、温かい会となりました。
小規模の開催ながら、最初の一歩として意義深い会だったと私どもは考えています。来年の開催も期待するお声をいただきましたので、また2025年5月に開催を予定しています。これから少しずつ輪が広がっていく予感がしています。今年ご参加できなかった方も、是非一度いらしてください。
(入部)